2022年4月28日に発売されると、ほどなく売り切れの人気商品。八十里越ルートにあたる新潟県三条市の下田郷(し)、福島県の只見町(ただ)・南会津(み)の頭文字から名付けた「しただみ」は三条市にある「福顔酒造」渾身の純米吟醸酒です。米焼酎「八十里越」が只見町生まれなら日本酒は三条市からと、代表的酒米のひとつ「五百万石」を三条産・只見産半々でミックスして架け橋としました。次の出荷への期待を込めてうかがいました。
福顔酒造㈱
代表取締役 小林 章さん Kobayashi Akira
新潟県中魚沼郡津南町出身1950年生まれ。3人兄弟の末っ子。駒沢大学経済学部卒業後、東京でサラリーマン生活。結婚を機に三条市に移住、福顔酒造の婿養子となる。
三条の恵まれた大自然が育む酒米と五十嵐川の超軟水を使用し、伝統の道具と製法で丁寧な酒づくりを貫く。日本酒ベースのリキュール開発や洋酒樽での貯蔵による香りの融合など、日本酒の新しい可能性も追求している
さっぱりした口あたりは世界中の料理と相性がいい
ーー「しただみ」はどんなお酒ですか。
小林さん:五百万石という、新潟県で開発されて各地に普及してきた酒米を使っています。この米の性質もあり、純米吟醸でありながらフルーティーですっきりした口あたりです。食中酒として、和食に限らず洋食、肉料理、中華やスパイシーなエスニック料理などにも合わせやすいですから、気軽に楽しんでいただきたいです。瓶の色も爽やかさを象徴するブルーにしました。
ーー販売開始から間もなくで、ほぼ売り切れと好評ですが、増産予定はありますか。
小林さん:600㎏の仕込みで1800本程度の限定販売ですしメディアのPRや、道の駅のおかげです。次回から生産量を増やすという予定はありませんので、来春の出荷時にはお早目にお求めいただければと思います。本年同様4月末ごろの予定です。
というのは、日本酒の消費量がここ30年で3分の1にまで減っている時代に私どものような、ブランド力のない小さな酒蔵がすべきことは、お客さまの声を直接うかがったり調べたりの研究を重ねながら、多様な嗜好にお応えする丁寧な酒づくりです。
他とは違う、福顔酒造ならではのオリジナリティを目指して少量多品種展開をしている中のひとつが「しただみ」で、特にこれを増やすというわけにはいかないのでご理解いただければと思います。
ーー「しただみ」に込めた思いをお願いします。
小林さん:良質の米と水と、じっくり発酵させるのに適度な寒さの揃った新潟県は日本有数の日本酒の産地ですが、水といえばトップクラスの超軟水で知られる五十嵐川沿いの燕三条地域には、かつて酒蔵が20以上ありました。しかし今は当社だけになってしまいました。
八十里越道路を記念して3つの自治体が連携するプロモーション事業に、三条唯一の酒造として参画しないわけにはまいりません。量より質にご期待ください。
嗜好品の好みは人それぞれ。
社員一丸でユニークな新しい日本酒の可能性を追求
ーー明治30年創業の福顔酒造の5代目当主ということは、跡取りとしてお酒の香りに包まれて育ったんですね。
小林さん:いえ、私は婿で、それに酒はあまり呑めません。
ーーえっ!
小林さん:女系で代々婿なので、同じく婿の先代にもよくしていただきましたが、酒が呑めないのは困りましたね。酒蔵のくせに呑めないのかとさんざん言われまして。
ーー小さな酒蔵の呑めない社長ならではのポリシーは何でしょうか。
小林さん:先代がいたころは「何も専務」(笑)で従っていたのですが、30歳ちょっとで社長になり無我夢中でやってきました。今は、自分たちが自信をもって美味しいといえるものをつくる方針です。
嗜好品ですから、何を美味しいと感じるかは千差万別です。評判がいいものや、旨いと思う酒があったら買ってきて皆で利き酒をするんです。そして「これ以上のものをつくろう。他にないものをつくろう」と社員一丸となって努力しています。「しただみ」もそのひとつです。
ーーユニークな商品が多いですよね。
小林さん:呑めない私としては、つい力が入るのは、日本酒ベースのリキュール開発です。新潟が誇る洋梨「ル・レクチェ」の果汁と極甘純米酒からつくったリキュールは会心作です。梅酒も、地元産と本場紀州の梅で時間をかけて実験してきました。バーボンやブランデーの樽で貯蔵して和洋融合の新しい香りを醸す商品もユニークでしょう。
創業時からのブランド「福顔」と、私どもの酒づくりの原点、超軟水を恵んでくれる川の名前をつけた「五十嵐川」などは定番ですが、意外性のある、隙間をいくような商品を開発しています。
八十里越街道は景色も人々も個性的
ーー八十里越道路開通に向けて、地域の魅力アピールをお願いします。
小林さん: 自然の美しさ、特に紅葉シーズンの素晴らしさはいうまでもないのでちょっと違う観点から申し上げます。三条は「三条商人」といわれるように、金物・刃物の行商から発展してきた町です。外に向かう気風があって今は世界に向けて商売をする製造業が多く、私も洋食器のメーカーについて台湾に行ったのをきっかけに輸出も手がけるようになりました。
今回のような自治体連携の企画に携わり、八十里越峠を挟んで福島と新潟の県民性の違いを感じているところです。商人の町ですと例えば酒を売るとなったら地元産にこだわらず、売れるものを集めてくるという発想になりがちですが、福島の皆さんは地域のものは地域でという価値観が強いのかなと感じた次第です。
三条と只見は八十里越街道の入口であり出口でもありますから、地域の個性を楽しみながら一緒に日本中、世界中の皆さんをお迎えできればと思います。三条にお越しの折は福顔酒造にもお立ち寄りください。
ーー楽しみにしています。ありがとうございました。
- 「純米吟醸 しただみ 720ml」¥1,980(税込)
- 化粧箱付き¥2,200(税込)アルコール分:15度使用米:五百万石(三条下田産、福島只見産)100% 精米歩合:60%
- 【販売店】漢学の里しただ、いい湯らてい、下田地区酒類小売販売店、燕三条地場産センター、燕三条Wing(燕三条駅)、福顔酒造小売店舗
福顔酒造
〒955-0061 新潟県三条市林町1丁目5−38
TEL 0256-33-0123
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取材日/2022年10月21日
取材・執筆/ 北原広子