三条市の人々の情熱に押され、南会津の老舗が「下田の蕎麦」を製造。

2023.02.27

新潟県三条市と福島県南会津町が連携し、「下田(しただ)の蕎麦」を2022年5月1日より販売開始しました。かつての八十里越街道の沿線、三条市下田(しただ)地区で採れたそば品種「とよむすめ」を市内で製粉。南会津町の麺製造の老舗「奈良屋」が加工製造しました。下田にある「道の駅 漢学の里しただ」「いい湯らてい」などで販売。三条市ふるさと納税のリターンとしても人気の商品となっています。今回は「奈良屋」の猪股裕一さんにお話をうかがいました。

株式会社奈良屋 
代表取締役 猪股 裕一さん

株式会社奈良屋 
代表取締役 猪股 裕一さん  Inomata Yuichi
南会津町出身・在住。昭和27年生まれ。株式会社奈良屋代表取締役。南会津町で18名の従業員とともに麺製造業を営む。明治大学商学部産業経営学科を卒業。母親の他界をきっかけに昭和50年に帰郷し後継者に。終戦後、先代が製粉を始めた。現在、うどん・そばを中心に生麺・乾麺などの粉物を製造し県内外に流通。平成7年の工場新設を機に代表となり、妻と二人三脚で家業を切り盛りする。息子の慶行さんも共同で代表取締役を務めている。

試行錯誤の上、素材の美味しさと
麺製造のノウハウを融合。

ーー「下田(しただ)の蕎麦」の特徴を教えてください。

猪股: 乾麺の場合でも主原料はそば粉です。奈良屋のノウハウを使って、下田(しただ)産のそば粉と小麦粉やタンパク質などの配合を調整。麺の切り方を少しだけ乱切りにし手作り感を出しました。色は明るく、ツルツルとした食感が特徴。年2回以上生産し供給しています。

そもそも下田地区で、そばは山間地で栽培されています。寒暖の差があり、傾斜があるため水はけがよく、そばが美味しく育つ良い条件が揃っていると思います。そば粉の製粉も丁寧に細かに仕上げており、滑らかな食感に合う風味豊かなそば粉です。その美味しさを失うことなく乾麺として十分楽しんでいただけるよう、小ロットで丁寧に仕上げています。

ーー「下田の蕎麦」の開発の経緯について教えてください。

猪股:三条市下田にある「道の駅 漢学の里しただ」の、21年当時駅長だった佐野英憲さんとの出会いがきっかけです。11月ごろから「そば粉は新潟県三条市で、そばを作るところは福島県南会津町でなんとかならないか」と何度か訪ねてきてくれました。しかも大企業では小さなロットでは難しいから協力してほしいと。

元々、奈良屋として、地域のプライベートブランドを作った経験がありました。南会津町の山間地の女性たちの栽培したそばを原料にしたた商品「おらがそば」や、特産のエゴマを使用してそば製造を試みたこともあり、地域ブランドとしてのそば製品の開発ノウハウは持っていたのです。

ーー「下田の蕎麦」の開発は大変でしたか。

猪股:はい。当初は、笹団子に使う「ごんぼっぱ」(やまごぼうとも言われる植物オヤマボクチの葉)をそばに入れられないか、新潟の食文化の色が出るからと言われたのです。ところが何度も試作しましたが、「ごんぼっぱ」の繊維が強すぎるため乾麺になりませんでした。微粉末にまでしたら練り込みができる自信はありましたが、コストがかかりすぎて結局諦めました。

そして、シンプルに下田の美味しいそばと奈良屋自慢のノウハウを合致させることへと方向転換したんです。

そばを遠くの人に届けたい。
南会津町から乾麺をメジャーに。

ーー奈良屋について教えてください。

猪股: 奈良屋は、県内では麺製造業としては中規模です。生麺はもちろん、主に乾麺を製造し県内外で販売しています。シロモノ(うどん・そうめん類)は、製品の9割を福島県内で流通。特に「清鶴麺」は60年前から福島県内の麺製造業8社で組合を作って製造し、TVCMなどを駆使した事業展開で、県民に馴染みのあるブランドとして定着しています。

ーーそば製造に力を入れているのですか。

猪股: うどんやそうめん、中華麺、餃子の皮なども作っています。しかし我が社のような規模では、シロモノだけでは大企業に負けてしまいます。そこで「そば」をメインに製造を進めてきました。かつては水車を回して製粉をし生麺を作っていました。現在は生麺に加え、乾麺が主力になっています。なぜなら、乾麺は日持ちが良く遠くに運べるため、多くの人に奈良屋の麺を食べていただくことができ、もちろん製造時期に偏りがなく経営的にも安定します。

奈良屋ブランドのそばは、素朴な味わいを大事にして、粗挽きそば粉を使用し、食感に厚みを持たせています。屋号「山六」ブランドとして、昔、木箱に入れていた頃のラベルを復刻デザイン。県内外へ出荷しているほか、オンラインでバラエティに富んだ商品を販売しています。

周回できる観光ルートに期待。
地域に来て、ぜひ町民と交流を。

ーー八十里越地域の交流についてどう思いますか。

猪股: 八十里越観光ルートをつなぐ、三条市下田地区と只見町は隣同士で、南会津町は少し離れています。ですので、私自身、最初は交流に関心が薄かったというのが正直なところです。ですが、新潟県三条市で会議がスタートし、前述した当時下田の道の駅の駅長だった佐野さんの情熱に感化されました。三条市の関係者の方々が熱い想いを持って取り組もうとしていました。その熱意に負けた(笑)というのが本音です。

ーー南会津町の未来について率直にお考えを聞かせてください。

猪股: 地域おこしという視点で改めて南会津町を見ると、新潟方面だけでなく、栃木県の日光へも抜ける道路計画などが進行しています。八十里越をはじめ、将来、南会津町を通り、周回できる観光ルートへの期待は見逃せません。今からしっかり交流をしてその土台を築いていかないといけないと、改めて考えています。

ーー南会津町の魅力的な観光スポットを教えてください。

猪股: 南会津町は、登山が人気で、湿地帯に咲く花々の美しさは素晴らしいです。特に「会津田島祇園祭」は毎年7月に3日間開催される希少価値の高い祭りです。地域には美味しいお酒やおそばもあり、手打ちそば体験や藍染体験などができるところもあります。

ぜひ道の駅や食堂などに寄って街の人と対話してみてください。何かを感じたらイベントに参加していただき、交流できれば嬉しいです。

上記2枚写真提供/南会津町商工観光課

販売先
道の駅 漢学の里しただ  (新潟県三条市庭月451-1  TEL:0256-47-2230)
いい湯らてい (新潟県三条市南五百川16番地1  TEL:0256-41-3011)
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 取材日/2023年2月9日
取材・執筆/ 寺澤順子