鹿の命を受け止めて!奥会津の想いと三条のものづくりから生まれたアウトドア用品

2023.03.14

自然の中の暮らしに、あるいは自然を楽しむときにも欠かせないアウトドア用品で、新潟県三条市と福島県南会津町のコラボレーションが実現しました。ものづくりの伝統ある三条の鍛治職人によるハンマーやナタと、南会津産の鹿革ケースとカバー。機能性とデザイン性に優れた刃物を柔らかな鹿革が包みます。でも、なぜ鹿革なのかーーおぜしかプロジェクトの小山抄子さんにうかがいました。

 

撮影/二神慎之介

おぜしかプロジェクト
代表 小山 抄子さん Koyama Shoko
福岡県出身。1993年の尾瀬沼ビジターセンターでのアルバイトをきっかけに尾瀬の自然と人々に魅せられ、2006年から再び勤務。2008年南会津町に移住。鹿の増加と駆除の実態、環境変化に心を痛め、2015年に「おぜしかプロジェクト」を立ち上げる。奥会津などで捕獲される鹿の革を使った商品を開発、製作販売、ワークショップや啓発活動にも力をいれる。

――三条の刃物と「おぜしかプロジェクト」の鹿革のコラボ商品誕生の経緯を教えてください。

小山:八十里越開通に向けて南会津町と三条市の交流を進める中で、南会津町商工観光課から三条市の山谷産業さんとコラボできないかとの提案をいただきました。

山谷産業は、今は「村の鍛冶屋」として人気のアウトドアメーカーですが、先代から引き継いだ後の苦難の時代を乗り越えてきただけあって、社長さんはアイデアも実行力も抜群で、あっという間に商品化が決まりました。

三条市は個性豊かな製造業者が集まる古くからのものづくりの地です。会津でナタケースというと一般的には木製なので、鹿革のナタケースやグリップカバーは商品開発も製造もゼロからのスタート。今回のコラボのおかげでものづくりの伝統に触れることができ、色々と勉強になりました。

鹿の命を無駄にしたくない!

――商品の特徴は?

小山:鹿革はソフトで手触りがよく、吸湿性にも撥水性にも優れているので、グリップカバー等にはとてもよく合っていると思います。一方で火に弱かったり、薄いため刃物が当たると切れてしまうなど、ハードなアウトドア用品に使うには難しい点もあります。

そこで、刃が直接当たる部分に牛革を挟み、また火を扱う製品は作らないなどの配慮をしています。山谷産業の担当者と何度も相談しながら、プロジェクトの顧問であるベテラン革職人と誕生させたのが今回のナタケースとグリップカバーです。

ふるさと納税の返礼品としても採用されていて、特にグリップカバーは人気があるようです。安定して大量生産できるような物ではありませんから、品切れになってしまうときもありますね。

――では次に「おぜしかプロジェクト」について教えてください。

小山:発足のきっかけは尾瀬の鹿です。私は尾瀬の自然が大好きで、1993年に尾瀬沼ビジターセンターでアルバイトをしたのですが、当時鹿は身近ではありませんでした。ところが次に働いた2006年には湿原に入るようになっていて、見る見るうちに増えました。

ニッコウキスゲやミツガシワなどは鹿の好物なので激減し、樹木への被害も甚大です。それで2010年ごろから「害獣」として「駆除」が始まります。つまり殺して廃棄です。山に置き去りにされることもあり、他の動物の餌になって熊や猪なども増える悪循環につながります。

殺してただ捨てるのは鹿の命に対してあんまりだと悲しくなりました。何かできないかと悶々としながら関連のイベントなどに出かけていくうちに、一頭から皮なめしを受けてくれる所があることや、ユニークな活動をしている革職人さんなどを知り、問題意識を共有する人たちとの出会いが広がりました。

原発事故の影響で肉を利用できないので、せめて革を利用した製品製作で鹿の命に応えたくてクラウドファンディングに挑戦したところ、資金目標を達成でき、本格的に活動を始めることができたのです。

南会津町の講座でキーケース作り

――それから9年目に入ったということですね。

小山:初年は8頭から始めたのが現在約100頭を活用できるまでになりました。地元中心に北海道の鹿も使っています。

もともと動物が大好きで写真を撮るために尾瀬で働いていたので、最初の何年かは殺した動物の皮で仕事をすることに対して悩み、鬱状態になったりもしました。でも、とにかく鹿の命を無駄にしたくない一心でやってきました。

ファーストシューズとサコッシュが人気

小山:商品開発は難しいですね。どんな物が受け入れられるのか模索の日々ですが、幸い販路は徐々に広がり、定番のキーホルダー、オーダーメイドのファーストシューズや最近発表したサコッシュは好評をいただいています。鹿革の柔らかさを活かせるブックカバーや名刺入れももっと知っていただきたいです。

待ち遠しい肉の利用

――将来展望はいかがでしょうか。

小山:地元の伝統工芸とのコラボなど、会津ならではの商品開発をしていきたいですが、実は一番の望みは肉の利用です。まだ出荷できませんから、今は自分たちでわずかに食べるだけ。一刻も早く肉を活用できるようになるのを待っています。

というのは、皮のなめし工程に送るまでの下処理、つまり刃物を使って皮に付着している肉や脂をこそげ落とす作業や、毎年北海道に行って解体も行うのですが、体力が持つうちしかできないと感じるからです。肉を使えるようになったら鹿の利活用としても何よりで、事業継続もしやすくなるに違いありません。

 猟師の方々の高齢化、害獣駆除への国の方針など懸念は尽きません。同時に、地元を盛り上げようと頑張っている方々もいます。冬期、工房で作業をしていると地元の人たちが訪れて好きな物を作っていくようにもなって、情報交換やアイデアの湧く場として何か生まれる可能性も感じます。

中断していたワークショップも開催できるようになったので、啓発を兼ねてどんどんやっていきたいです。

イベントに組み入れたワークショップで啓発も

四季折々の感動と個性的な雪まつり

ーー小山さんにとって八十里越エリアの魅力は。

小山:年中常緑の福岡から移住したので、四季の移り変わりがはっきりしているのが感動です。今でも一人で思わず叫んでしまうくらいです。どのシーズンもいいですが、私は特に冬が好きなんです。暮らすには厳しいけれど、自然の中で生かされていると実感できます。

変化に富んだ山や川、地元ならではの食べ物など、都会では味わえないことだらけです。それに、地形が複雑なので距離的には遠くなくても町ごとに個性があるのも魅力です。

会津の冬は毎週のように各地で雪まつりが開催されるのが楽しみですが、雪まつりも町によって違うんです。まさに「それぞれの冬!」を体感できます。

――ありがとうございました。最後に八十里越街道(国道289号)開通への期待をお願いします。

小山:この地域の新潟県側と福島県側は、夏は行き来できても冬になると全くといっていいほど往来ができません。冬の会津は雪質がとても良くて、雪利用のアクティビティ、温泉、旬の食べ物等、夏とは違う楽しみがいっぱいです。

三条市は都会ですから、買い物先の選択肢として、今までの会津若松や那須方面に加えて三条市に行ってみようと思えるようになるのは、私たち会津の者にとっての大きな期待です。

 

おぜしかプロジェクト

おぜしかプロジェクト
福島県南会津町古町字中川原50
(不定休、長期不在もあるため要事前連絡)
Facebook おぜしかプロジェクト

<商品のご購入は下記から>
村の鍛冶屋通販
取扱店:福西本店店蔵(会津若松)、道の駅きらら289(南会津)、山人家(5~10月、桧枝岐)、民宿檜扇(桧枝岐)、長蔵小屋(5~10月、尾瀬沼)、鳩待休憩所(5~10月、群馬県尾瀬鳩待峠)他

写真提供/おぜしかプロジェクト、二神慎之介(プロフィール写真)
取材日/3月7日
取材執筆/北原広子