「ほんとうの星空に出会えるまち」を掲げ、星空ファン歓迎に向けて態勢づくりを進める南会津町。この町だからこその魅力を、星空との付き合いが長く深い方々に語っていただきました。

参加者(写真左から)
古川晃さん:理科教師を定年退職し、現在は町議会議員。中学で親にねだって買ってもらった天体望遠鏡が見えにくく高校生の時に自作。退職金は高性能天体望遠鏡に注ぎ込んだ。講演会の講師を務めたり、星空案内人でもある。
湯田哲さん:町議会議員・民宿経営。子どもの頃に多かった宇宙についてのテレビ番組の影響か星空好きになり、天体望遠鏡で見る土星や木星に感動してさらに関心を深める。カメラでの撮影経験も長いが、肉眼で見上げるのも大好き。
有賀伸一さん:埼玉県出身。小学生で天文クラブに入り本物の天体望遠鏡に出会う。その後自分たちで天文同好会を結成、望遠鏡の自作も。無類の旅好きで北海道のユースホステルなどで経験を積み、南会津町に移住して民宿を経営。
三野輪眞明さん:東京都出身、小学生の時、兄が借りてきた反射望遠鏡で見た月が印象的だった。アポロ11号の月面着陸に天文少年として刺激を受けた中学時代は科学部、その後、高校では地学部、大学では天文研究会で活動。縁あって、学生時代の星仲間が始めたペンションの後継者となる。
樋口和夫さん:南会津町役場商工観光課・観光交流係長として星空プロジェクトを担当。



暗さが価値
➖星の美しい所は全国にたくさんある中、南会津町だからこそと言えるポイントは何ですか。
三野輪:星を見るのに何より重要なのは「暗さ」です。でも、本物の暗さを持つ町は、実はあまりありません。試しに、夜の日本列島の衛星写真を見てみてください。都市部は白っぽく輝いていますが、この辺りは黒くなっていて、人工の明かりが少ないことを示しています。
ただし、暗ければいいというわけではありません。山岳地帯は当然真っ黒ですが、一般の人が星を見るためにそこまで行くわけにいきません。人が暮らす場所でありながら暗いという、星を見るのに最良の条件が南会津町には備わっているのです。
➖なるほど、素晴らしい条件が揃っているわけですね。ちなみに人工の明かりの影響を受けない範囲はどれくらいなのですか。
三野輪:目安はおよそ50kmですね。南会津の場合、周囲を2000m級の山々に囲まれた盆地というのも好条件です。なんといっても巨大な光源は関東平野ですが、日光と那須連山が衝立のようになって守ってくれているんです。
星の観察にとって大きな価値は暗さ。人工的な明かりからも高いビルからも離れた星空がどんなものか、ぜひ南会津町で感じていただきたいです。
➖首都圏からのアクセスがいいというのも魅力ですね。
樋口:そうなんです。南会津町は星のマニアの間ではすでに知られる存在なのですが、私たちはこの自然資源をもっと一般に、多くの人に知っていただきたいと考えています。首都圏から気軽に来られるのは大きなメリットだと思います。
➖標高も関係ありますか。
有賀:大いに関係しますよ。標高が高いと、地上から遠い分大気に含まれるチリやホコリの量が少ないですから透明度が高くなります。
南会津町は、例えば役場周辺の標高が約550mで、少し車を走らせれば800mを超える所もあり、星の数も輝きも一層クリアです。
標高差による違いを体験するのも面白いと思います。

星空観察会で盛り上がる
➖南会津町の星空がいかに貴重なもので「ほんとうの星空」と謳う意味も分かりました。
古川:人工光のあふれる日常の中で、私たちがほんとうの星空を見る機会はあまりなくなっています。ここに来たらきっと感動していただけるはずです。
三野輪:この町は星好きの間ではすでに昔から人気の場所でした。私は東京出身の元天文少年ですが、東京の空が絶望的になっていく過程を見てきました。美しい星空を求めて全国各地に行き、かつての星空が失われていく様子もいくつも見てきました。今ここが一番だと断言したいと思います。
有賀:同感です。私も元天文少年で、かつ旅が大好きで日本全国歩いていますが、総合的にみてここは素晴らしいと思います。
➖星の町として、対外的にはどんな活動をしているんですか。
古川:今は、まず地元の人に地元の魅力に気づいてもらうことに重点を置いています。というのは、ここで生まれ育っていると美しい星空が当たり前になってしまい、貴重な資源に気づきにくくなっていると思います。そこを自覚するところから始めたいのです。
- 星空観望会・屋外
- 星空観望会・屋内
星空の専門家を招いたり、時には私たちが講師となって星空の説明をしたり、星空の楽しみ方を体験していただいたり、足元からのスタートです。
➖反応はいかがですか。
古川:皆さん本当に感動されます。満天の星はただ見上げているだけでもロマンがありますが、星空案内人から星空にまつわる色々な物語を聞けるので、時空を超えた散歩が楽しめるというわけです。
湯田:そもそも天体望遠鏡をのぞいたことのある人がそんなにいませんから、それだけで歓声が上がります。
今後の展開の参考にするため参加された皆さんにはアンケートに答えていただいていますが、評判は非常にいいですね。

➖「星空案内人」というのは?
樋口:「星のソムリエ」という資格です。奥深い星の世界を案内するための知識とイマジネーションのあるガイドをできる限り多く養成して皆さまをお迎えしたいので、町では資格取得に対して補助金を出すなどして奨励しています。
今のところ実際に活動しているのは3人で、ホテルから、あるいは直接お客さまからの要請があればご案内できるようになっていますので、ぜひご利用いただきたいです。
ガイドがいるのといないのでは星空が違って見えるくらいの差があると思います。
➖星空を見る観望会で何か具体的なエピソードはありますか。
古川:特に面白かったのがゲリラ的にやってみた会です。昨年10月に紫金山アトラス彗星が現れる夜があり、直前にスマホで情報を流してみたところ20人も集まり、大変盛り上がりました。

SNSでの情報では、写真や望遠鏡でようやく確認できたという所が多かったのに、私たちは全員が肉眼で見ることができ、南会津の星空の良さを改めて感じました。
湯田:私たちはフィルムカメラから使ってきた世代ですが、今はスマホの性能が良くて簡単に綺麗な写真が撮れます。皆さん大喜びでSNSに投稿されていました。
- 梅宮弘子さんスマホ撮影
もし希望があれば一眼レフでの夜空の撮影方法も教えられますから、おっしゃっていただければ対応します。
有賀:星空観察は、あらかじめ計画してもその日が晴れると約束できないのが難しいところなんです。
➖そういえばそうですよね、どうするんですか。
湯田:晴れなかった時の代替は必ず準備しておきます。座学での星空の解説はもちろんですが、例えば室内で望遠鏡を見てみるというのも、意外に受けが良かったです。
これからやってみたいのは、手作りプラネタリウムなどです。自然相手なのでご容赦いただく点は生じてしまいますが、出し物は色々工夫しますから、ご心配なくご参加ください。
- 南会津町役場提供
- 梅宮弘子さん撮影
これから本格活動へ
➖現状をお聞きしましたので、今後についてお願いします。
樋口:今はまだ、この町の星空を愛する方々のネットワークで動いていただいている段階ですが、南会津の星空が観光資源なのだとの意識は高まっていますから、今後は広く町外に向けてアピールできるよう、活動の中心となる組織づくりをしていく予定です。
➖ありがとうございました。では最後に新しい八十里越道路への期待を一言ずつお願いします。
三野輪:夜の日本列島の衛星写真を見ると、八十里越道路の辺りはこちらよりさらに暗いのが分かります。道路上から星を見ることができるかどうか分からないですが、見られたら素晴らしいだろうと期待しています。
有賀:新潟県に行きやすくなるのが楽しみです。旅行好きとしては開通したらすぐにでも出かけたいです。
湯田:南会津町のスキー場はパウダースノーで、新潟県とは一味違う雪質を楽しんでいただけるはずです。新潟県側から大勢のスキー客をお迎えできることを期待しています。
古川:八十里越を歴史街道という面から見ていきたいと思っています。三条と南会津の間には農機具や食習慣の共通性など興味深いことが色々あるのは、昔から交流があったからでしょうから、道路の開通を機に調べてみたいと思っています。
樋口:南会津町には星空以外の魅力もたくさんあります。日本酒の蔵元も4つあり、それぞれ個性的な味を醸しています。ぜひお出かけください。