平野歩夢選手が技を磨いた南会津のスキー場特集!(後編)

2022.02.25

金メダルの原点

多くの国民を感動の渦に巻き込んだ平野歩夢選手
小学生時代、平野選手は南会津町 南郷スキー場を練習拠点の1つとしていた。
良質なパウダースノーと地元の方々のサポートは彼の金メダル獲得に欠かせない存在であった。

今回は平野歩夢選手が通った南会津町のスキー場を前編と後編に分けて特集します。

前編は、南会津に魅せられた2人の「校長」が活躍するだいくらスキー場と高畑スキー場。
後編は、南会津で育った2人の地元民がマルチに活躍する南郷スキー場とたかつえスキー場の魅力をお届け。

南会津には格別のパウダースノーを提供するスキー場が4つもあるらしい?
4エリアを盛り上げる4人のアプローチ

東北地方の西の玄関口、南会津町。新幹線の駅もなければ最寄りの高速道路まで越県が必要な不便なエリア。地理的には関東地方に接してはいるものの、どうも南会津町は「奥地」を連想させるらしい。不便で奥地と言われると聞こえは良くない。
しかし、12月中旬を迎えると不思議な光景を頻繁に目にする。宇都宮、熊谷、さいたま、千葉、品川、横浜、相模原…見慣れない都市圏のナンバーを掲げた車が列をなして峠を降りてくる。どうやら南会津には極上のパウダースノーを味わえるスキー場が4つもあるそうだと、「ベタ雪」に満足できない人々がわざわざ足をのばす。

パウダースノーはそんなにも人を惹きつける?
魅力はそれだけではないのでは?と思う。

南会津町にあるのは「だいくらスキー場」「高畑スキー場」「南郷スキー場」「たかつえスキー場」。そこに関わる4人に協力を頂き、それぞれのエリアの魅力を語ってもらった。個性溢れる4エリアのアプローチをご覧あれ。

 

■南郷スキー場:平野歩夢、金メダルの原動力 チーム南郷の地元力!

『南郷』がYahoo!ニュースのトップに掲載された。しかも2度も。
町中から「え⁈」という声が漏れただろうと勝手に想像を膨らます。

1つ目のニュースは、記憶にも新しく、北京五輪で平野歩夢選手が金メダルを獲得。平野選手が小学生時代、練習拠点に南郷スキー場(以下、南郷)を選び、地元民が親身に彼をサポートしていたというエピソードが紹介された。

2つ目のニュースは、南郷のSNS投稿である。
経営的に厳しかったことをストレートに吐露したポスターが大きな話題となった。いわゆる「自虐的」な投稿がウケた。「助けてください・・・」というおおっぴらなワードによって、ニュース番組やワイドショーでも取り上げられ、全国的においしくイジられた。

話題となった自虐ポスター

「これを機に南郷とお客様の輪が一気に拡がったと実感した」
南郷スキー場の所長 星秀則(ほしひでのり)さん。自身が何気なくTwitterに投稿した写真がこんなにも多くの反響があるとは想像もつかなかったという。当時はSNSやスマートフォンにはあまり詳しくなくなかったため、Twitterの通知音の止め方がわからず深夜まで鳴り続いた。当然家族から「止めて!」と注意された。あっという間にいいね!やリツイートは60,000件を超えた。

南郷スキー場は、昭和51年にオープンし、南会津町では最も歴史あるスキー場。
「南会津でスノーボードやるなら南郷」が定着し、現在はお客様の70%がスノーボーダーである。
ハーフパイプがあるスキー場は珍しく(現在2コース、過去には4コース)、また頂上からのロングコースが人気で上達志向のコアなスノーボーダーが多いという。

昭和63年頃からスノーボードが国内に入り始めた。
馴染みのない横乗りのスノースポーツは抵抗があり、南郷周辺のスキー場はゲレンデの開放に難色を示していたという。アクセスの良い新たなスキー場が続々オープンし、入り込み客数減少など経営に「変化」を求められていた南郷であったが、他のスキー場同様にスノーボードに対しては他同様に抵抗があったという。

「絶対にスノーボードは流行る気がしますから、オープンにしましょう!」
と推したのは当時南郷のパトロール隊長をしていた星さんだった。先行して流行っていた海外でのスノーボード経験があったわけでもなく、ほぼ直感(?)だった。
星さんは高校3年時からパトロールスタッフとして南郷に携わり、リフト整備やインストラクター、所長を務めるなど様々なポジションで南郷をみてきた。

南郷スキー場所長 星秀則さん

何よりも大切にしたのはお客様の声だ。
「ハーフパイプを滑ってみたい」
スノーボード客が増え始めたなかでの要望がきっかけだった。スノーボードに対してオープンな経営スタンスをとってきたが、より特色や差別化が求められるスキー場経営のなかで星さんのアンテナは敏感だった。すぐに役場職員と地元の土建会社の方と一緒に先行してハーフパイプを設置していた山形に向かい、設置までのロードマップを練った。

「お客様の声を頼りにハーフパイプは少しづつ手をかけてきた。年間整備は費用面でも大変です」
と語る星さんだが、決してネガティブさはなかった。
「地元の方の協力は大きい。地元の土建屋さんは重機で整備をしてくれる」

南郷には地元らしい地域性の強さを感じる。
南郷の営業スタッフは約50人。そのうち80%は南会津の高原野菜ブランド「南郷トマト」の生産に関わっている。星さんを中心にお客様を想い、少しでも要望に応えようとするおもてなしのための結束力を感じる。
例えばレストラン「南郷トマトを使ったオリジナルメニューが多い。生産するのも料理を作るのも農家の方々。一番美味しい時期のトマトを冷凍保存しており、こだわりやプライドは高いですよ」
国内最大級のスキー場情報サイトSURF&SNOWのランキングでは「食事が美味しい」「コストパフォーマンス」「総合評価」が1位、「パーク充実」「接客・サービス」が2位と高い評価を得た。

「自虐ネタ」投稿から「平野歩夢選手」の金メダル獲得貢献まで、福島県でいま一番話題性のあるスキー場は南郷だろう。
2つのトピック以降、メディア取材に限らずお客様からの応援メッセージや感謝のメールも多い。

返信率100%
星さんが南郷のSNSを全て担当している。Twitter、Instagram、Facebook。寄せられたコメントやメッセージには星さんが丁寧に全て返答をしている。

地元を巻き込み、地元に支えられてきた南郷。平野歩夢選手の金メダル獲得には南郷のそういった想いも乗せられていただろうか。
平野選手が小学生時代に南郷に通った理由は「練習に専念できる環境があったから」である。父親に新潟より連れて来られた平野選手は単身で南郷に程近い地元民宅に居候し、送迎をしてもらっていたという。

南郷では、スノーボードの技術上達やハーフパイプに挑戦したい方向けのレッスンやイベントを開催している。平野歩夢選手が通った世界基準のハーフパイプを体感してはどうでしょう?粉雪舞うゲレンデで「特製ハーフパイプカツカレー」と一緒に、世界一の選手が惚れ込んだ南郷をお楽しみあれ。
怪我だけには気をつけて。

Profile

星秀則(ほしひでのり)
1961年12月9日生まれ 福島県南会津町(旧南郷村)出身
令和元年より南郷スキー場所長を務める。30代ではスキーパトロール全国競技大会で優勝。
周辺のホテル経営にも携わりスキー以外の楽しみ方を提供したいと独自のツアー等を提案。
「自分が楽しみ、やりたいことをカタチにする」を具体化している。

 

南郷スキー場

住所:福島県南会津郡南会津町界湯の入293
電話:0241-73-2111
営業:年中無休 8:30〜16:00
シーズン:3月27日(日)まで営業
リフト料金:大人1日券 4,100円、子ども1日券 1,500円 他お得なパック有り
ホームページへ

 

■たかつえスキー場:歴史と文化と自然が交わる舘岩 マルチな地元民の活躍!

道の駅たじまは週末になると多くの観光客で賑わう。
会津西街道と呼ばれる場所に位置する。
峠道の運転疲れを癒したり、南会津の特産品に舌鼓、地域の情報を収集したりと。

そこを過ぎると南会津町の「玄関口」のような、会津鉄道の高架線がある。関所にも見える。
右折は中心地田島方面へ向かい、左折は舘岩や尾瀬方面の分岐がここにあたる。
冬になると、スキー板やボードを積載した関東圏のナンバーが何台も列をなしてこの玄関口を通過する。交通量が一気に増える。「左折」の行き先はほとんどがたかつえだろう。

たかつえスキー場が位置する舘岩エリア。
歴史的にも重要な建造物群が並ぶ前沢集落や、地元住民に愛される秘湯 木賊温泉・湯の花温泉、四季の色豊かな尾瀬国立公園 田代山や澄み渡る清流。星が降っているかのような満点の星空。
そしてこのエリアを見渡すかのように構えるたかつえスキー場。周辺には個性あるペンションなど、リゾートエリアを感じることのできるログハウスが立ち並ぶ。多種多様な楽しみ方ができることがこのエリアの魅力の1つである。

たかつえスキー場(以下、たかつえ)は、東北屈指のビッグゲレンデと称され、高低差1,500m、5kmに渡る斜面には15コースが設置されている。「たかつえパウダー」という格別な粉雪が自慢であり、さらには、ハーフパイプやスノーパーク、起伏のあるクロスコース、ハイレベルなモーグルコースを整え、様々な全日本大会が開催されるなど東北屈指と呼ばれる所以はこのようなバラエティ豊かなゲレンデアレンジだろう。

 

ビッグゲレンデのなかには、様々なコースレイアウトが施されていることから上級者だけでなくファミリー層や団体客の受け入れも多い。
私も多くのスキー場をまわった経験があるが、大抵のスキー場は初心者が滑走できるコースはせいぜい2~3本程度。たかつえはスキー場の両端に初心者に優しいコースやリフトが設置されている。このようなゲレンデレイアウトによって、多くの層が楽しむことができ、特に「指導や移動がしやすい」と教育旅行などの団体客の利用が目立つ。福島県でトップクラスの来場者数を誇るようになった。

 

「特に山頂からの景色は絶景です。南会津町で1番です」
たかつえの魅力を伺ったのは伊藤綾(いとうあや)さん。
伊藤さんの紹介通り、山頂からの景色は素晴らしい。雪化粧された白く輝く樹々、尾瀬や那須の百名山の眺望、開放的なパノラマ。後ろには南会津町が誇る七ヶ岳が聳える。南会津4スキー場の中でも特に最高のロケーションではないか。

 

南会津町田島出身の彼女は31歳の時に東京からUターンで南会津町に戻った。伊藤さんの経歴は、え!と驚くものばかり。話を聞けば聞くほど興味が湧く。
多彩なポジションでマルチに活躍する彼女の関わりも交えて、たかつえの魅力を紹介していきたい。

伊藤さんは、会津若松市の看護学校に通った後に、同市内の病院に6年間勤務した。その後、看護師としての転職先に伊豆大島の診療所を選んだ。先ほど、「東京からのUターン」と書いたが東京都の伊豆大島、離島である。伊豆大島では出会うものすべてが経験したことのない刺激的なことばかりであったが、「もっと視野を拡げたい」と思い4年間勤めた後に次のステップに“アジア1周”を選んだ。
この時伊藤さんは30歳。1カ国目のタイで「マッサージを学びたい」と1ヶ月間古式マッサージの学校に通い、認定セラピストを取得した。インドネシア・バリ島でもマッサージ講習会に参加し、認定証を取得。最終的に7カ国を周り様々なマッサージやセラピー、エステを受けた。ちなみに伊豆大島在住の時も3ヶ月ほどオーストラリアにワーキングホリデーで行っていたそうだ。彼女のバイタリティには驚かされる。

伊藤さんは31歳で南会津町に戻った。
「自分のこれまでの経験や取得したことを通して南会津の方々の心身のサポートをしたい」と想ったという。自身の実家がある田島地区で1年間過ごした後に、たかつえがある舘岩地区に生活拠点を移した。

たかつえでは、スキーインストラクター、スキー場パトロール、看護師に始まり、海外で学んだマッサージの営業を開始。訪問施術とスキー場のホテルでのマッサージプランを共同で企画した。
これだけではない、南会津の高原野菜ブランド『南郷トマト』農家、地域ナビゲーター(観光をオンラインで紹介)の顔を持つ。一体何足の草鞋を履くのか?町を歩けば「伊藤さん!」「綾ちゃん!」と声をかける地元住民も少なくない。

 

マルチにたかつえと関わり、そしてUターンとして地元民として感じるたかつえの魅力は何か?
「パウダースノーは最高だが、降雪量は…移住者には大変」
「スキーだけでなくスノーシューツアーや登山も面白い」
「鹿、猿、猪…国道はリアルサファリパーク…」
「高速道路からのアクセスは良い、信号機がほとんどないからノンストレス」
「目に映る自然環境や素敵な温泉も多く、心身のメンテナンスに最適な地域」と様々な立場から魅力を語ってくれた。

伊藤さんは「南会津と人を元気にしたい」という故郷への想いを持っている。
今年はコロナ禍に加え、例年になく豪雪地帯が本領を発揮している。地域の方々の心身も不安だ。
たかつえも団体客が軒並み中止となり、踏ん張りどころが続いている。
彼女の笑顔と活躍によって南会津全体を明るく盛り上げてもらいたい。

Profile

伊藤綾(いとうあや)
1987年7月14日生まれ 福島県南会津町出身
令和元年よりたかつえスキー場のインストラクターやスキー場パトロールに関わる。
他にも看護師の経験や新たなに得たマッサージ技術、そして人柄を活かし様々な活動を通して南会津を盛り上げる。

 

たかつえスキー場

住所:福島県南会津郡南会津町高杖原535
電話:0241-78-2220
営業:年中無休8:30〜16:00 3月12日まで土曜日はナイター営業有り
シーズン:3月27日(日)まで営業
リフト料金:大人1日券 4,500円、子ども1日券 3,400円 他お得なパック有り
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