超豪雪地帯・只見町 集落の魅力保存に尽力する若き夫婦

2022.03.07

福島県の雪の象徴 只見町

自然首都 只見町。
「秘境」というフレーズがピタリとハマる地域である。

福島県の最西端に位置し、新潟県と隣接する。
1,000m級の山々に囲まれ、国内最大規模のブナ天然林が広がる。清らかな只見川と伊南川が流れ、日本の原風景を彷彿とさせる雰囲気が広がる。
日本有数の豪雪地帯であり、年間降雪量は約13m、積雪は4m近くになる。
四季の色合いと相俟って幻想的な情景を醸し出す只見線は見るものを惹きつける。

只見町 布沢地区の活性化に奮闘する藤沼航平(ふじぬまこうへい)さん。
藤沼さんは2017年に移住。
現在は妻の祐紀(ゆうき)さんと一緒に集落の廃校に明るい声を取り戻す活動を行なっている。

藤沼航平さん

集落と人をどのように繋げるのか?
彼らの取り組みは地域活性化をテーマにする上で非常に興味深い。移住の経緯や現在の取り組みを丁寧に紐解いてお伝えしたい。

■只見町 布沢地区

「只見」というと田子倉湖ダムや只見駅があるエリアをイメージする方は多い。
藤沼さんが活動する布沢地区は只見町で最北西に位置し、主幹道路の国道289号線から車で15分ほど山間地帯に走らせる。
隣接する金山町に抜ける県道もあるが冬季間は閉鎖されており、交通手段は国道からの一本道のみである。

集落に続く一本道

人口は約100人(50世帯)、高齢化56%は只見町で最も進行している。
コミュニティ持続への危機感は強く、15年ほど前より集落のキーマンを中心に積極的に展開してきた。集落オリジナルの総合計画を策定し、集落のビジョンを住民間で共有した。
象徴的な3つの取組みを紹介する。
まず、観光資源として自然保護公園「恵みの森」「癒しの森」を設置した。ブナの天然林の新緑や紅葉をトレッキングや沢歩きで楽しむことができる。コロナ禍前は年間5,000人が訪れている。

新緑や紅葉のなかを沢歩きができる(恵みの森)

次に、宇都宮大学などの受入を行い、空き家、遊休地の活用や地域行事の開催を共同で行なっている。またJR東日本労働組合には空き家を提供し、同社の保養施設として年間400~500人の職員が利用している。
最後は、廃校の利用である。昭和57年に廃校となった明和小学校布沢分校を平成9年に山村のくらし体験ができる宿泊施設「森林の分校 ふざわ」(以下、森林の分校)としてオープンした。

森林の分校ふざわ

■森林の分校ふざわ

森林の分校ふざわは、只見町と布沢集落で協議した結果、宿泊施設として2次利用をすることが決定した。森林の里応援団(任意団体)が経営管理し、只見町より指定管理を受託している。藤沼さんは令和3年4月に同団体の5代目代表に就任した。

廃校を宿泊施設に活用する取組は全国的にも先駆けであり、郷土食や様々な農村体験メニューを提供している。宿泊は年間700~800人、体験は1,000人程度で目標は合わせて2,000人を掲げている。お客様の約70%が関東近郊の方である。

冬の森林の分校ふざわ 冬は景色が一変する

□主な体験メニュー
・恵の森(沢歩き)ガイド 5,000円/組〜
・癒しの森(トレッキング)ガイド 3,000円/組〜
・縄より体験(草履・台座づくり) 1,000円/人〜
・釣り体験 1,500円/人〜
・かんじき体験 3,000円/組〜
・かまくら作り体験 5,000円/組〜
・打ち豆体験 500円/人〜
・その他 集落散策・餅つき体験・山村の恵詰込み体験・そり滑り体験など
Facebookで情報を適宜発信

雪は色々な体験ができる(和かんじき)

縄よりの体験

熊の毛皮に触れることも可能

集落の田んぼで稲作体験

山村の暮らし体験以外にも、若者目線の体験イベントが家族連れや子どもに好評である。大学生や活動に参加経験のあるOBなどが家族や同僚を連れて定期的に集まってくる。

■藤沼夫妻の奮闘

藤沼航平さんは栃木県下野市出身。
宇都宮大学で農村社会学を専攻しており、3年時(2010年)にゼミ活動を通じて布沢集落と出会った。
「最初は、単位が欲しくて…。」という、いかにも大学生らしい理由がきっかけだった。
布沢には年間3〜4回訪れ、集落住民との距離を縮めていった。訪れる度に布沢の魅力に惹き込まれ、4年時には地域おこしサークルD-friendsを立ち上げ、最大で60名の学生と一緒に布沢で活動を行なった。卒業後は、全農とちぎに就職したが毎週末の様に布沢に通った。

学生時には様々な集落活動を体験

そのような生活を4年間続けた後に、2017年只見町が公募をした地域おこし協力隊(以下、協力隊)に採用された。
「今後も来てくれという集落住民の声が忘れられなかった。親しい住民からのプッシュもあった。」と語る。
協力隊のミッションは「布沢集落と森林の分校の活性化」。3年間の任期後も定住し、関わりを継続している。

妻の祐紀さんは栃木県栃木市出身。
祐紀さんは首都圏で就職し、24歳で栃木県内の企業に転職した際に航平さんと出会った。
航平さんが協力隊1年目の時に婚約をした。祐紀さんは婚約後に航平さんの住む只見への移住・転職を考えていたが、布沢の積雪に衝撃を受けたという。
「3mの雪は無理だ。」
自身が布沢で生活することは困難だと思い、2018年10月に栃木から南会津町の中心地田島地区に移住した。航平さんは田舎暮らしの大変さはわかっていたことから祐紀さんの想いを尊重し、南会津町と只見町の二地域居住をスタートした。

藤沼さんの役割は多岐に渡り、森林の分校の経営全てを担っている。広報、集客、お客様対応、施設修繕、維持管理といったことから、体験ツアーやイベントの企画、連絡調整、集落行事のサポート、大学生の受入など獅子奮迅の働きぶりだ。
大変ではないですか?と尋ねた。
「近隣住民の協力があるから、森林の分校は成り立っています。」と語る。
集落の方々にとっては自らが育った学校の再活用。藤沼さんの働きによってかつての賑わいを取り戻している。住民にとっては手を差し伸べずにはいられない関係性ができている。集落に根を張り、地道な藤沼さんの活動は集落全体を動かし出している。

一昨年には、布沢集落出身の小林明日香(こばやしあすか)さんがUターンし「一緒に働きたい!」と森林の分校スタッフに加わり、新しい風が吹き込んでいる。

左から小林明日香さん、藤沼佑紀さん、藤沼航平さん

森林の分校は、日本の原風景をそのまま切り取ったかの様な木造校舎である。
館内は当時の面影そのままに、閉校時に当時の在校生や集まった卒業生が黒板に残したメッセージは消さずに残されている。集落住民にとっては古き良き思い出が、藤沼さん達のアイディアによって新たなカタチとなっている。高齢化や過疎化が進行し、伝統的な地場文化や建築物の喪失を危惧する地域にとっては理想的な取り組みである。

閉校時の黒板は消されずに残してある

妻の祐紀さんにも心境の変化があった。
田島地区で仕事に就いていたが、休みの際は頻繁に布沢に通い藤沼さんの仕事をサポートした。集落の方々との交流や布沢地区に畑を借りて自家菜園を始めたことで、「秘境」の環境にも慣れた。今年1月に只見町の空家バンクで住宅を購入し、夫婦での只見生活がスタートした。
住み始めてから不便さはそこまで感じないが、不安さは多少ある。
「八十里越道路の開通にはとても期待しています。」と声を弾ませた。

最後に、藤沼夫妻に森林分校への想いを聞いた。
「田舎や自然のなかでの暮らしに憧れを持っている方には気軽に寄って欲しい。まずは森林の分校での体験を通してからの方が田舎暮らしへのハードルは低くなると思います。」
「森林の分校をうまく利用して、集落住民の方々の仕事になって欲しい。自然ガイド、野菜・山菜や工芸品の販売など機会は色々あると思います。」と語った。

緩やかな時間が流れる只見町布沢地区。
タイムスリップしたかのような原風景と四季に彩られたこの地域に是非足を運んでみてはどうでしょうか?今は「豪雪」が見ものです。


Profile

藤沼航平(ふじぬまこうへい) 1990年7月5日生まれ 栃木県下野市出身
藤沼祐紀(ふじぬまゆうき) 1991年1月18日生まれ 栃木県栃木市出身


森林の分校 ふざわ

住所:福島県南会津郡只見町布沢大久保544
電話:0241-71-9511
営業:夏季営業 無休、冬季営業 定休日水・木(一部火曜)
料金:体験のみから宿泊まで様々なプランあります
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